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読書「ショック・ドクトリン(上) 惨事便乗型資本主義の正体」

以前、テレビで池上彰氏が紹介していた本が気になって図書館で予約していたが、ようやく上巻のみ届いた。350ページにも及ぶ分厚い本であったが、一気に読み進めてしまったのと、下巻がやってくるのはまだまだ先のことなので取り急ぎ上巻のみレビュー。

タイトルである「Shock Doctrine」とは、文字面どおり「ショックにおける原理原則」だ。例えば、人間はショックに感じることが起こったら一時的に思考能力が麻痺する。それを極端に利用したのが、拷問などによる「人格改造」だ。極限状態まで追い込まれた人間は、これまでの経験や考え方を一掃させることができ、新たな思想や知識を植えつけるには最適であり、CIAなどではこれらを科学的に実行するプログラムを作っているという。これも一つの「Shock Doctrine」だ。

人が集まる「国家」についても同様のことが可能であり、革命や弾圧、自然災害などは、経済政策的には「これまで常識的にできなかったことができるチャンス」であり、この「Shock Doctrine」が、数多く新自由主義者(市場原理主義、シカゴ学派)が、このチャンスを見逃さず、革命家や軍事独裁者を「炊きつけて」、まさに、副題にもある「惨事便乗型資本主義」を行ってきたということが本書では書かれている。

マクロ経済の専門ではないので、詳しくは説明できないが、そもそも、「新自由主義」とは、政府は市場経済に関与せず、人間の「利益追求」活動の結果、最適な結果が得られるという考え方である。所謂「規制緩和」「民営化」などがそれに当たる。わかりやすいところでいうと「小泉改革」(竹中平蔵氏は日本の代表的な新自由主義者)の郵政民営化やあらゆる規制緩和政策などがよい例だろう。この政策下では、競争が働くと同時に貧富の差は拡大し、失業者も増大し、デフレも続くと言われている。

もちろん、著者が反グローバリズムの旗手であるナオミ・クライン氏であるから、「新自由主義による実験」(チリ、ウルグアイ、アルゼンチン、ポーランド、ロシア、南アフリカ、そして、中国)への否定が沢山書かれているのは当たり前のことであるが、忘れてはならないのは、「惨事が起こったときには、過去に実現不可能と思われた政策を実行する絶好のチャンス」ということである。アメリカではハリケーンカトリーナの猛威の後、一掃された貧困地域に対してあらゆる政策が立て続けに行われた。また、スリランカでは津波被害のあったエリアに住んでいた土地所有者から土地を取り上げ、海外リゾート企業を誘致し政府は外貨を得ている。

昨年の東日本大震災において、我々日本人は多くのものを失った。更なる震災リスクや、原発や円高などの混乱も続く中で、現在の日本は所謂「ショック状態」とも言える。そして、一方で、この状態を好機と見て、新たなチャンスとばかりに動く人間がいるということを忘れてはいけない。

 

(「下」に続く)