依存しあうプラットフォーマーはWin×Winなのか?

◆米Zyngaは3月1日(現地時間)、ソーシャルゲームサイト「Zynga Platform」を発表。今月中にβ版をZynga.comで公開する計画。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20120302_516134.html

「CityVille」などの人気ゲームで知られるZyngaにとって、Facebook上でのゲームというのはまさに普及の源泉であり、なければならないものである。しかし、一方でFacebook内でのアイテム課金に使う有料課金サービス(Facebook Credit)は、課金に 対して30%(!)の手数料をFacebookが取るというモデルであり、2億4千万という月間アクティブユーザを抱えるZyngaにとっても、大きなリスク要因となりうることが同社のIPO時にも指摘されており、日本のGREEやDeNAと較べても収益性は格段に低かった。

そこで、Zyngaが取ったのが、新たな「Zynga Platform」を作るという選択。つまり、Zyngaという集客力のあるゲームプラットフォームを作り、その上で他のプレイヤーがゲームを配信することができるというモデルだ。ここまでは、「また新たな強者(プラットフォーマー)が誕生したか。」という話にすぎないのだが、興味深いのはこのプラットフォームの提供方法にある。

Zyngaが今回提供するのは、下記の2つのプラットフォームだ。

Zynga.comという独立したゲームプラットフォームの提供(Facebookとは別枠のフレンド機能となる「z-friends」や、ソーシャルストリームの提供)

・従来どおりのFacebookIDを利用したログインによるFacebookソーシャルグラフをそのまま持ち込んだ上でのZyngaPlatform

これを見ると、前者はFacebookからの決別、後者は従来どおりのFacebookとの蜜月であるように見える。ちなみに、後者のFacebook上のプラットフォームの場合は、3rdpartyのプレイヤーがゲームをZyngaPlatform(かつ、FacebookPlatform)上で、アイテム課金を行った場合、Facebookから課金の30%が取られるだけでなく、Zyngaからもレベニューシェアを取られることになる(詳細は未定)。もはや、3rdPartyからすると「Facebookだけでなく、お前も取るのか!!」という、3rdPartyとしては踏んだりけったりなモデルに見えるが、それでも、やるというあたりというところは、Zyngaの集客力に依存する強気というところではないだろうか。

一方で、Facebookの立場はどうだろうか?Zyngaがしかけたような、プラットフォーム内での課金と言えば、昨年、Apple電子書籍プレイヤーの間で繰り広げられた「アプリ内課金の戦い」を思い出すが、このケースでは、Appleには得られるものが無かったので、このケースとは違う。Facebookとしては、これまでどおり課金に対する30%分のレベニューは得られることから、大きな違いはない。Facebookが30%取った上で、更にZyngaが30%取り、結果的に3rdPartyの開発者側に40%しか入らなくなったとしても、基本Facebookの取り分は変わらないからだ。

ただし、それだけでは終わらないZyngaの戦略にポイントがある。Zyngaはもう一つ独立したプラットフォームを用意したのだ。3rdPartyにとって、ZyngaPlatformの独立プラットフォームで提供した場合はFacebookが取るはずの30%分は取られない。つまり、取られる先はZyngaの取り分だけであり、ZyngaPlatformの方が収益性が高く、その分開発費に予算をかけることができ、魅力のあるゲームを開発することができるということになるのだ。

であれば、Zyngaは、独立プラットフォームだけ用意して、Facebook上のプラットフォームをやめればいいかというと、そこまでは踏み込めなかったのだろう。やはりZyngaにとって、Facebookソーシャルグラフというものが持つ意味は非常に大きく、完全に自分たちの土俵に引き込めるかどうかは不確定なのだ。独立プラットフォームにした結果、誰も自分たちのプラットフォームに載らない可能性もある。その点で、リスクヘッジができるという点ではFacebook上で提供することには意味があるのだ。

更に、Facebookにとっては、「Zyngaが見過ごす事ができないプレイヤーである」ということにも意味がある。先日のFacebookの上場申請関連資料に拠ると、Facebookの収益のうち12%がZyngaのゲームによるものだということが発表されている。Facebookにとって、Zyngaがいなくなるということは、収益の約1割を失うということにも繋がるのだ。つまり、Facebookにとっては大事な「顧客」でもあり、仮にZyngaの独立プラットフォームにユーザが流れていった場合に、Facebookが何もできずに手をこまねいてる事はないだろう。例えば30%の取り分を下げるとか、何かしらZyngaのようなプラットフォーマーを優遇する施策をとるに違いない。そういうFacebookの収益基盤の弱さをついた「もくろみ」もZyngaにはあるに違いない。 

GoogleApple、amazon、そしてiモードに代表されるプラットフォーマーは、そのプラットフォーム上のプレイヤーの「ルール」を決められるということから、王様のような存在として見られ、多くのインターネットのプレイヤーがプラットフォーマーになることを夢見ている。ただし、このプラットフォームを維持し続けることは非常に難しい。例えば、このFacebookZyngaのケースのように、一つのプラットフォーマーの上に、一つの強力なプレイヤー(ここでいうZynga)が存在することは、プラットフォームの成長期ならまだしも、安定期に入るタイミングでは必ずしもよいことではない。江戸幕府が265年という長期間の間政権を維持することができた理由の一つに、強力な外様の藩からは参勤交代により財政支出を多く出させ、弱い親藩は保護するという政策にあったが、このように一部の強力なプラットフォーマーに依存するということは、プラットフォームそのものにとって大きなリスクに繋がるのだ。

Facebookにとっては、Zyngaという大きなプレイヤーを捨てることも、これまでどおり収益の大きな部分を依存するということも大きなリスクである。一方Zyngaにとっても、Facebookに依存し続けることも、独立することにも大きなリスクがある。だからこそ、持ちつ持たれつの「Win×Win」の関係なのかもしれないが、同時に「Lose×Lose」の関係であるような気もするのは気のせいだろうか。